Webでの小説における漢数字と英数字の使い分けについて

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目的
Webでの小説(コラム、エッセイ、詩など)における漢数字と英数字(アラビア数字)の使い分けについて、読みやすさや合理性の観点からどのように使い分けるべきか、考えてみることにした。
途中でブレてしまうのを防ぐという個人的な目的のために、体系的にまとめておこうと思った。
原則
3桁以上の数量や順序、年数などは英数字、1~2桁の数字やことわざ、慣用句などは漢数字を用いる。
1~2桁の数字
漢数字の方が和文になじみ、文体として自然。会話や地の文とも調和しやすい。
⭕三人の旅人が、霧に包まれた山道を黙々と進んでいた。
⭕彼女はその場に十二時間も座り続けていた。
⭕あれから五十日が過ぎたが、彼は今も夢の中で彼女の名を呼んでいるという。
ただし現代や海外を舞台にしている場合、英数字の方が適合している場合がある。
⭕3人の旅人が、霧に包まれた山道を黙々と進んでいた。
⭕彼女はその場に12時間も座り続けていた。
⭕あれから50日が過ぎたが、彼は今も夢の中で彼女の名を呼んでいるという。
作品全体として統一した選択を行う。
3桁以上の数字
原則
視認性と正確性を重視するため、英数字を用いる。
⭕昨年のマラソン大会には、全国から1234人のランナーが参加した。
⭕このノートは一冊560円だったけれど、紙質が良くてとても書きやすい。
3桁以上の数字を漢数字を用いて書くと読みにくく、またかなり古風な印象を与える。
⚠️昨年のマラソン大会には、全国から千二百三十四人のランナーが参加した。
⚠️このノートは一冊五百六十円だったけれど、紙質が良くてとても書きやすい。
きりのいい数
ただし、きりのいい数については、3桁以上であっても漢数字と単位語を用いた方が良い場合がある。
漢数字と単位語を用いた方が和文によく馴染む。
⭕この貨物船は三百トンの鋼材を積んで、明日の朝に神戸港を出航する予定です。
⭕書類は五千枚以上もあって、仕分け作業に丸二日かかった。
⭕この開発プロジェクトでは、十万坪の土地に商業施設と住宅地を併設する計画だ。
情報として重視するなら、英数字でも良い。
しかし桁が大きくなるほど、視認性が低下するため、漢数字と単位語を用いるべきだろう。
⭕この貨物船は300トンの鋼材を積んで、明日の朝に神戸港を出航する予定です。
⭕書類は5000枚以上もあって、仕分け作業に丸二日かかった。
❌この開発プロジェクトでは、100000坪の土地に商業施設と住宅地を併設する計画だ。
三桁ごとのカンマ
小説では、三桁ごとのカンマ(,)は使わない。
事務的・報道的・ビジネス的な印象を与えてしまい、小説の文体にそぐわない。
❌その祭りには1,000人が集まった。
違う桁が複数並ぶ場合
違う桁が複数並ぶ場合は、英数字のほうが全体をひと目で把握できる。
⭕10人、100人、1000人と徐々に人が集まってきた。
漢数字でも問題はない。
⭕十人、百人、千人と徐々に人が集まってきた。
日付や年号
西暦なら英数字が望ましい。
⭕2025年7月14日――あの日のことを、彼は今でも忘れられずにいる。
和暦を用いるなら漢数字で統一した方が良い。
⭕令和七年七月十四日――あの日のことを、彼は今でも忘れられずにいる。
時間
状況に応じて使い分ける。
漢数字は語りや叙情に溶け込み、視覚的な調和を保つ。
⭕午後三時、喫茶店の古びた柱時計が、控えめな音を立てて時を告げた。
英数字と視認性が現代的で客観的・緊張感・即時性が出せる。
⭕彼は腕時計を見てつぶやいた。「7時5分なら、まだ時間はあるな」
スマートフォンなどのデジタル時計の画面を再現する場合は(:)と英数字を用いた表現が適切。
⭕スマートフォンの時計は「14:55」を示していた。あと5分で講義が始まる。
小数と分数
小数点
縦書きレイアウトである新聞記事では中点「・」を用いるようだが、横書きレイアウトでは使われない。
⭕「――生き残ったのは、全体の0.5%に過ぎません」
❌「――生き残ったのは、全体の0・5%に過ぎません」
やや変則的だが、漢数字と中点を強調する意味合いで小説で用いることは、あるかもしれない。
⭕黒板に残された数字――3.14159。それは、まるで何かの呪文のように静かにそこにあった。
⭕黒板に残された数字――三・一四一五九。それは、まるで何かの呪文のように静かにそこにあった。
きりのいい小数の場合、表現を工夫することも検討する。
⭕「――生き残ったのは、全体の五割に過ぎません」
⭕「――生き残ったのは、全体の半分に過ぎません」
パーセント
通常は記号を使う方が、英数字との相性や視認性、テンポから好ましい。
⭕「生存率は、たったの0.5%……?」
⚠️「生存率は、たったの0.5パーセント……?」
ただ人物が口に出して言っている会話文では、カタカナで使用されることもある。
⭕「その薬の成功率は五十パーセントってとこかね」
分数
漢数字の方が言葉として自然に読めることもあって、小説文体に馴染みやすい。
⭕「あと四分の一だけでいいの。私の人生の、ほんの四分の一でも、あなたと過ごせたなら、それで充分よ」
英数字を用いたり、スラッシュを用いた表記にすると急に説明的・事務的な印象になり、読者の没入感を損ねる可能性がある。
❌「あと4分の1だけでいいの。私の人生の、ほんの4分の1でも、あなたと過ごせたなら、それで充分よ」
❌「あと4分の1だけでいいの。私の人生の、ほんの4分の1でも、あなたと過ごせたなら、それで充分よ」
❌「あと1/4だけでいいの。私の人生の、ほんの1/4でも、あなたと過ごせたなら、それで充分よ」
ただし五分粥、七分袖、九分九厘のような慣用複合語は、英数字を用いない。
慣用複合語:意味が慣用的に固定化した複合語(=二語以上の単語からなる語)を指す説明語
範囲
範囲を示す場合は波ダッシュ(〜)と半角英数字を用いる。
⭕僕はパソコンショップの店員にお願いした。「予算は10~11万円でお願いします」
⚠️僕はパソコンショップの店員にお願いした。「予算は11~12万円でお願いします」
❌僕はパソコンショップの店員にお願いした。「予算は十一~十二万円でお願いします」
漢数字を使う場合、「から」と「まで」などの助詞を用いる。
⭕二日から四日まで休業するつもりだ。
慣用表現・ことわざ・比喩
固有表現として漢数字が定着していて、必ず漢数字で書く。
⭕一石二鳥
⭕四苦八苦
⭕石の上にも三年
⭕三本の矢
⭕四つ葉のクローバー
英数字を使うことはまずない。
❌1石2鳥
❌4苦8苦
❌石の上にも3年
❌3本の矢
❌4つ葉のクローバー
英数字の全角数字と半角数字
半角数字の方が視認性と可読性に優れ、英数字・記号との整合性も高い。
⭕「F-14戦闘機の愛称はトムキャットだったよな?」
SEOや検索性の面でも、半角数字の方が一致する可能性が高い。
よってWeb上のような横書き小説の場合であれば、半角数字を用いる。
一方で縦書きレイアウトの場合や見出しや飾り的な表示、強調といった目的なら全角数字を使用する。
⭕「ついに販売開始︕100人限定の特別キャンペーン」
同一文中で「半角」と「全角」を混在させることは避ける。
❌「……結局、3人だった。いや、正確には3人とも言えるかもしれない」
漢数字と英数字の混在
以下のような漢数字と英数字が混在しているケースがある。
⭕二人の男は「では7時に集合だ」と口々に言った。
時刻の即時性は英数字のほうが自然で、話し手の人数は漢数字が文体的に柔らかいため、両者を混ぜても読者の違和感は少ない。
ローマ数字
ローマ数字は読みやすさや可読性の観点から、なるべく使わない。
⭕ルパン2世
❌ルパンⅡ世
ただし固有名詞として使われている場合は、例外として使用する。
⭕ドラゴンクエストⅦ
❌ドラゴンクエスト7