黒衣の騎士

本作はパーンのライバル的存在であるマーモの騎士、アシュラムを主人公にした短編集である。
本編終盤でマーモ帝国から脱出したところから、彼の過去のエピソードと共に、新天地へと向かう様子が描かれている。
そのため本編を全て読み終えた後で、この作品に触れるのが望ましい。
船出
暗黒の島マーモを脱出し、新天地を目指す漂流民の船団は、港で黒衣の将軍アシュラムの帰還を待っていた。
マーモ帝国はロードス本島の連合軍によって征服され、帝都ペルセイや闇の森、ファラリス大神殿も敵の手に落ちていた。
アシュラムは騎士団を率いて北の港街サルバドで防衛戦を行い、民が脱出するための時間を稼いだ後、帝都の玉座へ最期の挨拶に向かっていた。
ダークエルフのピロテースが港で待機するなか、アシュラムは戦の神マイリーの司祭ホッブやグラスランナーのマールを従えて姿を現す。
しかし、その背後にはヴァリス王国の聖騎士たちが追撃してきていた。聖騎士たちは王命に背き、自由騎士を自称してアシュラムを討とうとするが、アシュラムは彼らには自由騎士を名乗る資格がないと断じ、魔剣魂砕きを振るってこれを壊滅させた。
アシュラムは船に乗り込み、自らを王と仰ぐ漂流民たちに向けて、新天地への出航を宣言した。
暗黒の覇者
物語は、若き日のアシュラムがマーモ島の翳りの街で頭角を現していた時代に遡る。
アラニアの名門貴族の嫡子として生まれたアシュラムだったが、父が政争に巻き込まれて流刑となり、マーモで過酷な少年時代を過ごした。
彼は生き残るために邪悪になることを誓い、同じく流刑囚であった暗殺者のオーエンを片腕として、暴力と恐怖で街の若者たちを支配していた。
翳りの街の評議会は、闇の森で勢力を拡大する赤髪の傭兵ベルドを恐れ、アシュラムを利用して彼を暗殺しようと目論む。
評議会は蛮族の娘レーテを人質に取り、ベルドを東門へと呼び出すが、アシュラムはベルドと一騎打ちを行い、その圧倒的な英雄性に敗北を認める。
その最中、オーエンが評議会の密偵としてアシュラムを裏切り、人質の娘を殺害してベルドとアシュラムを共に射殺しようとする。
しかし、ベルドはダークエルフのアスタールの助けを借りて窮地を脱し、アシュラムの命を救った。
アシュラムはベルドという英雄を超えたいという野望を抱き、彼の軍門に降ってマーモ帝国の建国に力を貸すことを決意した。
海魔
ロードス島を離れた漂流民の船団は、風も波もない鏡のような海域に閉じ込められる。
そこは船の墓場と呼ばれ、海草が櫂に絡みついて前進を阻んでいた。
魔術師グローダーとピロテースの調査により、海底に広がる海草の森の中心に、精霊力を操る古代樹が生えていることが判明する。
アシュラムはこの障害を取り除くため、ピロテースの精霊魔法によって水中での呼吸と自由な移動を可能にし、自ら海底へと潜った。
海底には沈没船の残骸が積み重なり、古代樹が支配する幻想的な王国が広がっていた。
アシュラムが魂砕きで古代樹の幹を攻撃すると、海流が乱れ、操られた魚たちが襲いかかってくる。
古代樹はアシュラムに自分の住人となるよう呼びかけるが、アシュラムは王としての使命を果たすためにこれを拒絶し、ついに古代樹を切り倒した。
この勝利によって海域の封印は解かれ、船団はふたたび新天地を目指して航行を開始した。
永遠のはじまり
英雄戦争から数年後、アシュラムがカノン王国の太守として統治していた時期のエピソードである。
アシュラムは厳格かつ公平な施政を行い、カノンの民に秩序と安らぎを与えようとしていた。
その頃、マーモの評議会はアシュラムを反逆者と見なし、ダークエルフのピロテースを暗殺者として差し向ける。
ピロテースは、兄アスタールを死に追いやった原因がアシュラムの無能にあると信じ、復讐に燃えていた。
彼女は姿隠しの魔法でアシュラムの私室に侵入するが、アシュラムはあえて隙を見せて彼女を誘い込み、返り討ちにして捕らえた。
しかし、アシュラムは彼女を殺さず、自らの信念を語って解放する。
その後、バグナードの策略やカノン貴族の反乱が重なるなか、アシュラムはふたたびピロテースに命を狙われるが、彼女は戦いのなかでアシュラムの真の姿を知り、逆に彼を助けることになる。
グローダーから兄の死の真相とアシュラムを救った理由を聞かされたピロテースは、次第にこの黒衣の将軍に惹かれていった。
上陸
長い航海の末、船団はついに未知の大地クリスタニアにたどり着くが、そこは爬虫類の鱗のような模様が刻まれた巨大な断崖によって閉ざされていた。
食料も水も尽きかけ、民が絶望に陥るなか、アシュラムの心に支配を司る神バルバスの声が響く。
バルバスはこの地が外界の混沌を阻むルーミスの結界に守られていることを告げ、民を救う条件としてアシュラムの肉体を要求した。
アシュラムは王としての責任からその代償を受け入れ、バルバスは奇跡を起こして大地を海の高さまで降臨させた。
アシュラムは新しい王国を先帝の名にちなんでベルディアと名付け、騎士隊長のヒックスらを後継に指名した後、自らの肉体を神に捧げた。
しかし、アシュラムは魂まで明け渡したわけではなく、自らの内に侵入した神の魂と永遠の戦いを続けることを決意していた。
こうして、暗黒の島の民による新天地への上陸が始まった。