8巻のあらすじ

『境界線上のホライゾン』第VIII巻(上・中・下)は、夏休みの後半を舞台とし、歴史の巨大な転換点である「本能寺の変」の再現と、世界の存続を揺るがす「末世(まっせ)」の真実に迫る物語である。
巨大浮上ドック「有明」での停滞と再起
武蔵勢は、先の戦闘で受けた破損を修復するため、巨大浮上ドック「有明」にて停泊を続けている。
この期間、学生たちは「移動教室」としての補習や実技試験、さらには各員がそれぞれの課題に向き合う日常を過ごしている。
しかし、この平穏な時間の裏側では、織田(P.A.Oda)および羽柴勢との決定的な対立、そして「本能寺の変」に向けた高度な外交交渉が進められている。
明智・光秀の襲名権を巡る政治交渉
本巻の核心となるのは、武蔵副会長の本多・正純が行う、P.A.Odaの代表(冷泉)との交渉である。
正純は「本能寺の変」に介入するため、歴史再現上の首謀者である「明智・光秀」の襲名権を武蔵側に譲渡することを提案する。
この交渉の過程で、明智・光秀本人は「山崎の合戦(本能寺の変の直後の戦い)」で死ぬ気はないという驚くべき意志が明かされる。
これは、歴史再現を単なる「死の強制」として受け入れるのではなく、各勢力が自らの存続と目的のために歴史を利用しようとする複雑な思惑の表れである。
羽柴十本槍の正体と「未来」の告白
武蔵勢の前に立ち塞がってきた「羽柴十本槍」の正体が、物語の中で決定的な形で明かされる。
彼らは、末世解決に失敗し、世界が希薄化して滅びゆく「未来」において、現在の武蔵の学生たち(三年梅組の面々など)がもうけた子供たちである。
彼らは、親たちが歩んだ「失敗の歴史」を繰り返させないため、そして親たちを死の運命(最終決戦での壊滅)から救うために、あえて敵として現世に介入している。
この衝撃的な事実は、武蔵勢に自らの「親としての責任」と「未来への選択」を突きつけることとなる。
「末世」の正体と人格化された運命
物語は、「末世」による世界の崩壊の真実にも光を当てる。
末世とは、単なる環境の悪化ではなく、人格を与えられた「運命(さだめ)」が自ら死を望み、自殺を図っていることによって生じる現象である。
かつて「どこにも存在しない教導院(天津乞神令教導院)」に集まったカルロス一世やヘンリー八世、明智・光秀といった人物たちは、この運命の自殺を止める方法を模索していた。
P.A.Odaが推し進める「創世計画」は、この運命の人格を「処刑(消去)」することで末世を止めようとするものであり、武蔵勢はそれとは異なる「運命を一人にしない(救う)」解決策を模索し始める。
「本能寺の変」へのカウントダウン
物語の終盤、全ての外交と因縁は、京の御所・内裏を舞台とした「本能寺の変」の再現へと収束していく。
明智・光秀は自ら「帝の解放」を宣言し、世界を再構築するための最終的な動きを開始する。
武蔵勢は、自分たちが守るべきもの、そして受け継ぐべき未来を明確にし、羽柴勢との直接対決、そして歴史の特異点である「本能寺」へと突入する決意を固める。
この第8巻は、キャラクター個人の感情(親子関係や恋愛)と、国家レベルの戦略、そして世界の真実が複雑に絡み合い、物語が最終局面へと加速する重要な転換点となっている。